宝塚歌劇団雪組 「浅茅が宿」「ラヴィール」

1997-12-03 13:00開演 宝塚1000days劇場


「浅茅が宿 −秋成幻想−」

『春櫻賦』の時もそうだったのだけど、私が雪組を観に行くときって、たいてい天気悪い。この日も帰るときには雨が降っているし、折りたたみ笠持っていったから別にいいけど、家についたあとは雪になるし。

あまりにも期待が大きかっただけに、少々肩すかしを食らった感じである。思ったより「蛇性の淫」が私の中で盛り上がらなくて、まあ、それは仕方がないことなのである。ほとんどホラー部分(と、眞女児の誘惑)みたさで行ったようなものだし、勝手にいろいろ妄想していたので自業自得なのだ。でも、小姓のりん弥(貴城けい)が妖しくて美しくて参ってしまった。眞女児(月影瞳)もなんかわけもなく怖かった。特に清水あたりで勝四郎(轟悠)と会うところの行列の眞女児が。

周りがウカレポンチでいるのに、あの一隊だけ、影がかかっているんだ。どんなに華やかな様子でいても、空気がどんよりしている。異様な雰囲気。でも、勝四郎も曾次郎(香寿たつき)もお上りさんだし、都の人とは別の意味で浮かれているから、全然気づかないの。この時点では、眞女児は勝四郎と曾次郎のどっちにでも執り憑けたと思うのだけど、勝四郎は曾次郎よりもずっとふわふわしているのと、彼の中にある「宮木(月影瞳=二役)」という存在をいち早く見抜いて、狙いを定めたんだな。

そのあと法師(箙かおる)の忠告も虚しく、勝四郎は眞女児に溺れていくのだけど、ふたりの濃い場面があれば、3年で帰る約束や(おそらくそのあと)宮木をお嫁さんにする約束を破った後悔がかなり強くでるのではないかと、思った。

しかし、眞女児達は「もののけ」なのに、どうして宝物殿の財宝を盗む必要があったんだろう。それがきっかけで不振の種が蒔かれるけれど、できれば、勝四郎が見ていたものはすべて(貰った刀や御殿の調具まで)ゆめまぼろしのほうがよかった。幻の世界に投げ込まれた「現実」という小石みたいでおもしろいけど、ちょっと存在が目立ってたかな。

目立つ、というか、注目すべき人物は、法師。要は彼の存在がすべてのきっかけになるんだけれど、チャルさんはさすがです。存在が怖い。案外これは、宮木がくれたお守りの中身というか、宮木のフカ〜イ魂のような気がするんだな、私は。そういう深読みはさておいといて、法師はどろんと消えてしまう感じがよい。観ていて「アレどうやって消えたんだ」という不思議さはないけれど、曾次郎の「や!奴が消えた」って感じはよく出ている。

音楽がなかなかよい。眞女児の御殿のところとか、映画っぽいし、笙もシンセサイザーでそれっぽい音だし、植田紳爾氏のもったいぶった日本物が「日本物」だとすると「偽日本物」っぽくて、私は好きだ。


「ラヴィール」

今回の私のお目当ては、月影瞳なのだった。『春櫻賦』あたりからはじけてきて、オモシロイからね。というわけで、ぐんちゃんモードで観てました。

さて、貴咲美里が一場面貰っていましたね。タメ歳だし、彼女はちょっと気になる。淑女Sは、ほとんど夜の淑女という風情なので星奈優里と比べたくなってしまうが、ここはぐっと押さえて、でも歌詞にあるでしょう。「プレゼントには靡かない 輝く指輪も見飽きたわ 甘い言葉に騙されない 今夜はNo thank you」って。貴咲美里の本質はやっぱりここにあるのではないのかな。オトナっぽい感じのほうが断然似合っている。『浅茅が宿』ですずなやってる場合ぢゃないって。

このショーは、「エジプト」「DANCE JAZZIN」がイチ押しである。「エジプト」は人間のぐんちゃんが轟悠の黒豹に恋をするという設定。スフィンクスの中で、黒豹を愛の世界に誘(いざな)うんである。誘惑というにはちょっと弱い。でも今後は、ぐんちゃんの誘惑役も観てみたい。今までなにかあったっけ? でもカラッとしているから、ドライに、男を誘って弄んだ挙げ句に捨てるっていうのがいいかもな。男と一緒に愛の深淵まで堕ちていくって感じではないよね。それはホシナユリなんだけど。

閑話休題

五峰亜季が紅一点で黒豹ダンサーに入っていて、キレがあってやっぱり格好いいんですよ。音楽もGOOD。

「DANCE JAZZIN」は「エジプト」以上にお薦めの場面。勢いがあるし、皆、男役も娘役も踊りまくっている。ジャズなので宝塚は得意だし、音楽とダンスとキャストがはまっていてハズレがないのがいい。

プロローグのロケットも、大勢いるので迫力がある。やっぱりロケットは大人数に限る。2回目のロケットは、立樹遙がロケットボーイでいるとはいえ、前半のロケットを見てしまうと空間がすかすかしてなんか物足りない。

劇場の音響のせいもあるかもしれないけれど、最低重音でやればなんでもロックになると、思っているのかな? 「エジプト」はともかく、「フィナーレC」は、R&Rなのでは? R&Rが悪いわけではないけれど、宝塚で聴くと「なんかヘン」と思ってしまうのはなぜだろう。カラースポットのせい?

どうしても「芝居の雪組」のイメージは強いけれど、こうしてみると踊れる人もいるし、5組化や組替えで組全体が活性化されていて、いい感じ。ショーでは成瀬こうきが東京公演から参加していて、○○の男AとかBとかっていう目立つところに今回はそんなにいないけれど、中堅・若手にはいい奮発材料になるのではないかな。朝海ひかるもここに加わることになるが、そうなると結構すごい下克上状態になりそうだ。


@home > 観劇ノ記録-1998 > 浅茅が宿/ラヴィール