1999-02-01 14:00 開演 日本青年館大ホール
近松作品は、扉座がまだ善人会議だった頃の『女殺桜地獄』(『女殺油地獄』の善人会議版)以来で、あれも桜吹雪がすごかったが、『心中〜』はそれ以上に吹雪である。近松戯曲には舞台上で吹雪を飛ばしたくなっちゃうような何かがあるのだろうか?
この日は、第一場でおまん(愛耀子)が退出する際に、亀屋の奥に掛かっている暖簾を落としてくというハプニング(本当に?)があった。客席全体に「アラ〜」というような雰囲気&笑いが…… なんとかしたくても誰もどうもできない。第六場で奥からでてくる芝居のある忠兵衛(汐風幸)が、(暖簾のないのに気がついて)「ちゃんと掛けときなはれ」など、いろいろとアドリブをとばしておりました。主人みずから暖簾を掛け直してたりして。客席は大ウケけしたね。その場にいた八右衛門(朝海ひかる)は、かなり辛かったはずだ。
それにしてもおまんは面白い。愛耀子が演るからおもしろくなるのだろうか。三太(麻愛めぐる)と庄介(蘭華レア)とではえらく態度が違ううえ、与平(未来優希)にも言い寄ってて、一体おまえ何モンなんだ!と云いたいぞ。朝帰りの忠兵衛におだてられて、舞い上がったりふくれっ面するところが好き。またこのフグみたいな顔が似合っちゃうからおかしい。三太は、場内の笑いをかっさらうおまんと対等に張り合うからエライよ。庄介の蘭華レアは、もしこの時期に宝塚で『銀河鐵道の夜』をやったら絶対カムパネルラはこの人なのである。おまんが揚げを一個余分にあげたり、表を掃かなくていい、というくらい好きというのが納得できる少年でしたね。三人の中ではいちばん背が高いし、一緒にいると口数少ないのが彼だから。が、単におまんに気圧されているだけって気もする。
やっぱり、最後の道行きがすべて。雪に埋もれる梅川・忠兵衛観たさに行ったのであることを、告白しよう。梅川も忠兵衛も、どの場面よりもいちばん綺麗だった。そして、私の意表をついたのは雪道で、弛んだ布のうえを歩くというのはまったく思いつかなかった。ふたりは雪に足を取られて思うように前へ進めない、というのが非常にわかりやすい。白い布を普通に敷いてあるよりもウソっぽくないぞ。
青年館はこれが3作品目なのだけれど、今まで観たふたつはフィナーレがあったのに対して、『心中・恋の大和路』にはそれがなかった。が、なくて正解である。フィナーレで幸せなふたりが舞っちゃったりしたら、興醒めだったろうな。拍手の嵐でもう一度幕が開くが、あそこでも「死に際の梅川・忠兵衛」だったのが、よかった。ふつうにお辞儀されていたら、これまたせっかくの感動に水を差すというものだ。
2階席で観たのだけど、30人ちょっとしかお客さんがいなかった。上から見た感じだと、1階もパラパラと空席が見受けられた。だいたい、「日本物」という理由だけでつまらないと決めつけて観に行かないのなら、それはすごい損してると思う。
と、いうわけで、もう一回観に行くことに決めたのでした。
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