「観劇ノ記録[impressions-西暦]」と題しているのに、ただの観劇(予定)表になっているのもどうかと…。観っぱなしという状態もナンなので、観劇メモです。ただし、鮮度が落ちてしまったものは捨てました。
2005-07-17 15:30開演 東京宝塚劇場
大劇場公演のときは、その後に観たバウホール公演にすっかり参ってしまって、小さく畳んで記憶の奥底へ置き忘れたままでいた。
榎本滋民がどんなに凄い人で、今公演の脚本、演出を担当した植田紳爾氏がどれほど敬愛しているかは知らないけれど、宝塚歌劇は宝塚歌劇なのだから、新国劇を見せられてもつまらない。これで宝塚らしい翻案が施されているのならまだしも、主演男役と主演女役がいるという宝塚のシステムすら活かし切れていないのは、いかがなものか。
凶状持ちで今は長崎唐人屋敷に匿われている伊佐次と、江戸から彼を追いかけてきて長崎で小者として動いている卯之助の男の友情(と云うか、卯之助の伊三次への愛)を描いていると云われても、どうにも説得力というか、見せ方が「なんか違うんだよなあ」と思えてしまう。ふたりの幼馴染で堺に流れ、豪商に囲われている芸者のおしま(檀れい)のと絡みも喰い足りない。欲目というか、檀はこれで退団なので、がっぷりと三つ巴の芝居が観たかったかなと。
唯一良かったとすれば、人海戦術の精霊流しの場面で、逃げる伊佐次(轟悠)、追いかける卯之助(湖月わたる)、更に追いかける同心の館岡(立樹遥)の緊張感もさることながら、港に向かう精霊船に鐘の音と「ドーイ、ドイ」」の掛け声が、仙堂花歩の清んだ物悲しい歌声との相乗効果で、この後の伊佐治の命運を思うと切なく感じた。
@home > impressions2005 > 長崎しぐれ坂
2005-07-06 19:00開演 新国立劇場小劇場 THE PIT
『NOTHING ON』という公演の初日前日の舞台稽古(新国立劇場小劇場THE PIT)、中日(北九州ゲージュツ館)、千穐楽(新潟リューとピア)の舞台裏が舞台。爆笑に次ぐ爆笑で、この『ノイゼズ・オフ』のみならず、『NOTHING ON』もそのリーフレットもよく出来ている。
『NOTHING ON』自体、登場人物がドアに出たり入ったり、オイルサーディンが消えたり現れたり、荷物が消えたり現れたりすることによって生じるドタバタ喜劇である。そこへもってきて、場当たりを飛ばした状態で突入した舞台稽古。出と引っ込みが不完全ながらも、舞台稽古ということで演出家しらいあきら(白井晃)の指示が入ったりして、まずここで「NOTHING ON」がどういう話なのか、どういう状況設定なのかを表から見せることですべて説明。そして中日、千穐楽は舞台裏に移り、徐々に出演者のパワーバランスが変化するのと、それに伴って舞台進行の段取りもしっちゃかめっちゃかに、出演者も素と役の切り替えでてんやわんやになる様子が、面白かった。
設定を日本に移して、『NOTHING ON』に出演する役者も、出演者の名前を平仮名にしただけというのも、翻訳劇臭さが抜けわかりやすく、でもなんだか、もの凄くウソっぽさ満点。千穐楽での、めちゃくちゃになった芝居を必死で立て直そうとするいまいともひこ(今井朋彦)や、それなのにアドリブを利かせられなくて、とにかく台本どおりの台詞を言ういがわはるか(井川遥)のやりとりが珍妙だった。
@home > impressions2005 > うら騒ぎ/ノイゼズ・オフ
2005-06-21 19:00開演 国立劇場大劇場
デフォルメされた毛抜きの大きさには驚かないが、お姫様の奇病の原因のありえなさが、ブッ飛んでいて素晴らしい。あれは当時の先端技術だったそうだ。それと、見目麗しい(そして狙ったように前髪の)若侍に迫って、お屋敷の腰元にも迫って、両方から素気無く振られている主人公のヘタレさも。一応ヒーロー物なのに。だからこそ、お姫様の奇病のカラクリを見破る慧眼との落差がおもしろいのかなと思った。
十八番と云うことで、「鳴神上人が――」(2004年6月の歌舞伎鑑賞教室は「鳴神」)みたいなセリフもあり、お話も面白く、歌舞伎は奥が深いと改めて感じた。
@home > impressions2005 > 毛抜き
2005-06-16 14:00開演 宝塚バウホール
宝塚では鬼門の、進行形の「現在」を扱っているにも関わらず、普通におもしろかった。劇場規模と出演者数、出演者に見合った話を書いてきて、作、演出の植田景子氏はそつのない仕事。設定、ストーリー自体がもう少女漫画で、予想通りの結末だし、甘々なのだけど、出演者全員が上手に騙してくれたので、満足度高し。
全員が隙がなく印象に残るのだけど、4代にわたるロワゾー家を演じた風莉じん、白河ゆりは特に。セシル(和音美桜)が否定しそして求めてきた「(愛にあふれた)幸福な食卓」が、中年夫婦、キッズランチ、離婚問題を真面目に語り合おうとする若夫婦、そして独りだけの金婚式をあげる老ロワゾーによってまざまざと見せ付けられる。ロワゾー夫のマトリックスばりのナイフ避けも、おもしろかった。
他に、体だけではなく懐の大きい大人の男性である主役のアラン(悠未ひろ)。見えるものしか信じないと言うセシルや、病気ゆえに諦めが横たわっているエリーヌ(咲花杏)の抱える孤独を掬い取りきちんと包み込んで、なんだかすごく、格好良い。夜通し調べ物〜朝食の場面で、実は罵られてもおかしくないはずなのに自分のことを労わるアランに対して、どういう感情を出していいのかわからなくなっているセシルの不器用さも切なく、晩餐会のメニュー「セシルの庭」を見て笑顔を浮かべる彼女は、今まで抱いてきた父親に対しての蟠りや誤解、周囲に対する虚勢が氷解して本当によかった、と思った。
@home > impressions2005 > Le Petit Jardin
2005-06-05 13:30開演 紀伊国屋ホール
明治の世、近代国家にふさわしく全国統一語の制定を命じられた南郷清之輔(佐藤B作)。南郷家は、清之輔が長州、妻と舅が薩摩、女中頭は江戸山の手、台所女中は江戸下町、下働きの女中は羽沢米沢、車夫が遠野で書生が名古屋、居候のピアニストが英語と、ただでさえ各地の言葉があふれている中に、河内弁の女郎、京都弁の胡散臭いお公家さんに、会津の士族が加わり、全国統一語を巡って、てんやわんやの大騒動になる。
女中頭の加津(剣幸)が自然と通詞役になっていたり、小学唱歌集は皆普通に共通語で歌っていることにどうして気がつかないかな、などと思うのだが、一途なまでに統一語のことに思いをめぐらす様が喜劇なのだと思う。
やっとのことで文明開化語と云う共通語に辿り着いたのに、謹慎中の知らない間にお役御免になり、発狂してもなお共通語について滔々と語り続けるラストが、なんだか物哀しかった。
@home > impressions2005 > 國語元年
2005-04-29 19:00開演 PARCO劇場
さすがに大王、期待を裏切らない。シェイクスピアの『間違いの喜劇』や『十二夜』に代表される双子物とは違うのだけど、これもある意味取り違い劇。(ラブ・コメディーではないと思う) 顔を合わせている相手の姿が違う人物に見える(しかも、あるきっかけによって組み合わせがシャッフルされる)という、主人公にとっては抜き差しならない状態なのだが、それによって引き起こされるちぐはぐなやりとりが面白い。
甘い、と云われればそれまでなのだが、窃盗団チップスを率いるハートを演じた風花舞が、やはりキメが決まるのでカッコイイ。サバサバした持ち味が、情の薄いハートの役柄として上手く引き出されていたと思う。
ハートだけではないけれど、ほかにも人が余情なくあっさり殺されるところも、後藤ひろひと氏らしいなあと。
@home > impressions2005 > Shuffle
2005-04-21 11:00開演 宝塚バウホール
イギリスの青年将校の、無実の罪で死んだ父の敵討ちと、幼馴染との愛、戦場でともに戦った中尉との友情を描いた青春譚(?)。話の辻褄あわせや細かな考証などは一切なしの、良くも悪くも宝塚(というか、作・演出の中村暁氏)らしい脇の甘さ。話が唐突で、どれをとっても中途半端なうえ、普段のバウホール公演よりも少人数なのに、出演者のすべてを活かしきれていない気がした。主役ジェフリーを勤めた壮一帆が余裕の存在感で、ひとり気を吐いている。
@home > impressions2005 > さすらいの果てに
2005-04-17 13:00開演 新国立劇場小劇場 THE PIT
「コミュニケーションズ」と云う一座の解散公演、という設定らしい。どこかバタ臭い頃の昭和の雰囲気。各コントごとに見れば、ブラックや不条理の中に笑いがあったり、おもしろいのだが、全部ひっくるめてみると纏りに欠く感じがした。
@home > impressions2005 > コミュニケーションズ
2005-04-09 14:00開演 日本青年館大ホール
ドラマシティ公演を観た時には妄想が大暴走してしまったため、ほぼリベンジ観劇。
嘉吉の乱から長禄の変までの騒乱を背景にそれぞれの立場の様々な思惑が絡み合う中、大切なものを守ろうとした結果、逆にそれを失ってしまう悲劇。一幕最後では源信御津(朝海ひかる)が大君(舞風りら)を想い、二幕では式部卿宮(貴城けい)が信御津を想い、転生を願ってそれぞれ弓を引く姿が切ない。
全体的に性急で説明不足の感もあるが、今年観た宝塚のオリジナル作品の中では一番しっかりしている。各役どころに見せ場も用意されていて、個人的には、長禄の変での菊里御膳(麻樹ゆめみ)と小谷与次(沢音和希)の立ち廻りが嬉しかった。
@home > impressions2005 > 睡れる月
2005-03-21 15:30開演 駒場アゴラ劇場
駐輪場問題や邪馬台国はどこか、宇宙人の地球征服などの議題(それぞれが寓意に満ちている)について話し合いがなされるが、御聖断を仰ぐような事態を避けるため、結論を先送りにしようとする話。
会議に全員揃っていなかったり、出席者のプライベートな問題なども明らかになり、会議が紛糾、というよりはしっちゃかめっちゃかになるあたりが面白い。宇宙人による地球征服については、佐藤(山田)が息をしていないという事態発生により、疑問視される大陸における陸軍の作戦と合わせて結論が宙に浮いたまま。結局うやむやのまま物事が決まってしまう予感を漂わせていた。
@home > impressions2005 > 御前会議
2005-03-21 14:00開演 駒場アゴラ劇場
ソビエトのスターリン(松田弘子)、アメリカのルーズベルト(高橋緑)、イギリスのチャーチル(島田曜蔵)が、戦後処理について話し合うヤルタ会談。お茶(ソビエトが用意、セルフサービス)と各自お菓子持込で、なんとなくお喋りの延長のような雰囲気で、各国の痛いところ(1937年の大粛清、核兵器開発、植民地政策)を突きつつも深く追求はせず、とりあえず早く終わらせようと話をまとめてしまったような、そんな印象。相当デフォルメされているにも拘らず、あんな雰囲気だったのでは、と思わせてしまう。そして、次に彼らは何を言い出すのかと期待しつつ、30分笑いっぱなしだった。
@home > impressions2005 > ヤルタ会談
2005-01-13 11:00開演 宝塚大劇場
宿泊客より従業員数のほうが多い廃業寸前のホテルに関わる人々の群像劇。現状に満足したままでいるか、ホテルの持つ良さを活かしながら新しい試みを模索するか。穿ってみれば、ホテルは宝塚歌劇団の比喩と取れなくもない。ステイシー(花總まり)をはじめとする従業員の置かれている状況が、状況は違うけれど自分に直結すると云うか、わかると云うか、なんだか他人事とは思えなかったあたりが悲しい。(宝塚を観てるのに)
芝居のナチュラル志向なのかどうかは不明だが、正塚氏の作品濃密度が、前作『La Esperanza』より更に薄まっているのはどうしたことか。
@home > impressions2005 > ホテル・ステラマリス